2014年10月04日

自分を救うのは「自分」だけ

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10月2日(木)

7日ぶりの休みだった。
精魂ともに朽ち果てて、死亡ホリデーだった。

しかし命朽ち果てようとも、布団だけは干さなきゃナラナイというのが今日の至上命題だった。

もうこれ以上、一秒だってこの布団で眠ることなどデキナイやしない。眠ってはナラナイし、眠るつもりもサラサラない。
牛舎で牛糞まみれのワラの上に寝てた方が衛生面では格段に良好なハズなんだ。この布団だとね。

身体がダルイ。指一本動かすのも、鼻毛一本そよがせるのもメンドクサイ。だが、ワタシは蛮勇の猛を奮って布団を担ぎ上げベランダへ出た。

「えーい!センベイ布団よ、浴びよ日光を!殲滅するぞ、クソダニどもを!」

俺はマントのようにバサッと布団をはためかせてベランダの柵にかけた。

ドサドサッと何かが落下する物音が聞こえた。ううっ、なんかが階下に落ちたみたいだ!布団の中に絡まってた衣類があったのか?またか?またくだらない不注意か!知らん、俺はもう知らんゾ!

錯乱しながらベランダの下をのぞき込む。目ん玉が飛び出て鼻血がブーッと100デシリットルは出血した。

「ジ、ジーパンが!俺のジーパンが、一階のメンヘラ野郎の敷地内に落下している!」

またミスってしまった。布団の中にジーパンが巻き込まれていたのを気づかずに干してしまったのだ。その結果、哀れジーパンは階下の住人のテリトリーに不時着してしまった。

俺はしょっちゅう下にモノを落とす。だが階下の住人は無頓着なのか、落下物をずっとそのまま放置し続けるのだ。

見下ろすと、俺の洗濯バサミや布団バサミなどが何年も雨風にさらされたまま、そのムクロを晒している。

さすがにジーパンはそのまま捨て置くワケにはいかないヨ。なんとしても救出しなければナラナイ。さて、一体どうすればイイのだろうか。

階下の部屋のピンポンを鳴らし「いゃあ、申し訳ありません、うっかり布団を叩き落としてしまったのですよ。引き取らせて頂けませんか?」などと気さくな笑顔で訪問すれば良いとでも?

絶対に不可能だ。俺は宇宙で一番根暗なメンヘラなんだ。見ず知らずの他人となごやかに談笑するなどもってのほかだ。そんなの想像もデキナイし、したためしもナイし、今後もするつもりはナイ。

「強行突入するしかナイ!」

俺はそう決心した。でもどうやって?

俺は宇宙で一番根性がない男だ。
サッと塀を乗り越えて布団を拾い上げてレスキューするような英雄的行為などできるハズがない。
不法侵入で捕まるのがコワイ。余罪がバレると死刑になりかねないからだ。

一計を案じた俺はカサを持って階下へ降り立った。そして塀によじ登り、干したスルメのように上半身だけ不法侵入すると、なんとかカサの取っ手をジーパンに引っ掛けて釣り上げた。

「なんという英知だ!なんという完璧な救出劇だ!俺の頭脳と勇気ある行動はどんな困難でも克服するのだ!」

俺は干しスルメ状態でジーパンをつかみながら叫び狂った。この俺に不可能の文字はナイ!欲しいモノは何だって手に入れる。金もオンナも、そしてカビくさいジーパンだって!

俺がジーパンをこの手にワシづかんだ瞬間、ポケットからポロリと何かが落ちた。

「て、定期がッ!昨日買ったばかりの定期が落ちた!再びクソ敷地内に落下してしまった!」

俺は塀の上で干しスルメのカッコのままバタバタと足をバタつかせて悲しみの怒号を張り上げた。

「な、なんてコトなんだよ!一難去ってまた一難、なんで俺の人生はこうもツイてないんだよ!」

つべこべ言ってる場合ではナイ。今度はジーパンどころの騒ぎではナイ。
まだ一日しか使ってない定期券を落っことしてしまったのだ。ダンプで塀に突っ込んででも取り戻さなきゃナラナイのは明白である。

人間窮地に陥ると縦横無尽に知恵が働く。

俺は部屋に戻りカサの取っ手にガムテープを巻きつけるとギラギラした獣のような目で再び塀に登った。

「グヘヘヘ。恐怖の「トリモチ作戦」だ。この吸着力、定期はおろか、地中深く眠るモグラだって吸い付いて釣り上げるコトができるだろうさ!」

俺は尻丸出しでカサを伸ばし、ペタリと定期券を粘着させた。

「うおーっ!カスみたいな近隣住人どもよ、見たか?これがビクトリーだ!これが真のグローリーだ!」

俺は首狩り族がヤリに突き刺した生首を誇示するかのごとく、カサを振り上げて叫び狂った。泥まみれのパスモが「近隣の皆さん、お騒がせして本当にスミマセン…」とでも言いたげに、頼りなくガムテの先っちょにくっついていた。


何とも言えずみじめな休日だ。

何がビクトリーだよ。何が真のグローリーだよ。お前、ホントにバカなのか?

自らの人生の敗北を認めるのはツライことさ。
それでも時間は過ぎ去ってゆく。あまりに無慈悲に、冷酷に時間は過ぎてゆく。
その嵐の中で、なんの抵抗もできず、ただボーゼンと死に体のまま時をやり過ごすのが俺の休日さ。完全にヘルプレスなのさ。

どっと疲れてソファに倒れこんだ。虚空を見上げたままレコードを聴く。清水靖晃の「IQ 179」だ(写真)。

「こうバカだと、世の中生きていくのってホントにツライな…」

俺はひとりつぶやく。IQ 179って超高けーよな?俺のIQってせめて二桁くらいはあるのかな?

ねぇチミ、モンモンとしてても何も始まらないよ。もうレースは終盤戦なんだよ。顔を上げて胸を張りな。
頭を使う必要なんてナイんだ。あとはヤルだけなんだよ。行動だけがすべてなんだ。走って走って、どこかの途中でパンッとはじけてそこで終わりでもイイじゃないか。な、走ろうよ。最後の一周、息を止めたまま全力で走ろうよ。チミならできる、きっとできるんだよ。

俺はヨロヨロと立ち上がって台所に行き、食パンを一枚焼いた。
朝も昼も食パンだった。でもすぐお腹がいっぱいになる。

食べ終わると、俺はウクレレを弾いて、蚊の鳴くような声でボソボソと歌い始めた。
posted by ツリー at 18:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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