2014年09月18日

銭湯にて

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9月16日(火)

大阪から帰ってきて以来、微熱とめまいが続く。やはり気持ちは沈む。

めまいに関しては長きに渡っての習慣のようなもの。効果的な薬はなく、ひたすら横になっているより他はない。

休日だったので、安静にしていることに決めた。決めようが決めまいが、どうせ部屋からは出ないくせに。

真夏のように暑い一日だった。

廃墟のような部屋を少しでいいから片付けたかったが、脳からの要請を身体は拒否した。片付けられない。

ソファに横臥し天井を眺める。

ぐるぐる回り続けるので吐き気がしてくる。目を閉じる。船酔いはもっと酷いんだろうから、これくらい辛抱しろ。自分に言い聞かせる。
暗い感覚が血管を通って足の指先にまで浸透してゆくのが判る。


ずっと部屋で逼塞しているのも良くないので、夜、銭湯に行った。

ロビーに古ぼけたマリリンモンローのポスターがたくさん貼ってある銭湯。客足は少ない。

熱い湯船と水風呂とを交互に入るのが自分の習慣である。
身体に良いと聞くが根拠のほどは判らない。ただ癖づいた習慣は遵守しないと気持ちが悪い。

お湯に浸かっていたら窓から小さなバッタが飛んできて、そのままポチャンと湯船に不時着してしまった。溺れている。

銭湯の湯船に虫が浮かんでいるのは極めて不快な出来事だ。自分が入った時に湯の中に虫がいたらゾッとする。しかし、今は、飛んできて、落ちた、という経緯が判っているので気にはならない。

バッタは何とか壁にしがみつく事ができたようでジッとこらえていた。
自分は遠目てそれを見ていた。

「やはり必死だな…」

頭の中でそうつぶやいた。そりゃそうだろう、命がかかっているんだから。

やがてバッタは力尽き、プカプカと俺の方へ流れてきた。
他の入浴客が見たら嫌な思いをするだろうと思い、桶でバッタをすくい、側溝に流した。
側溝は洗い流したシャンプーなどで泡だらけになっており、バッタの姿は一瞬にして見えなくなった。

しばらくして湯船からあがった。自分のシャワー台の前に戻ろうと思った。もう一度、側溝を見た。バッタの姿はなかった。

ふと足元を見て俺は驚いた。

先ほどのバッタが俺のかかとのすぐ近くに這いつくばっていたのだ。あの泡だらけの急流の中から生還してきたのか?バッタよ、キミは初代引田天功なのか?俺は驚き、そして観念した。

「いや、本当にすまなかった。俺も客商売が身についちまってるのでな、つい周りの人間の気持ちを気にしちまうんだ…。ホント勘弁してくれな…」

俺はバッタを指に乗せた。彼はしっかりと指にしがみついた。

手にバッタを乗せたまま、俺は彼が最初に飛び込んできた窓から外へバッタを逃がした。

バカ野郎が。最初からそうしてやればよかったじゃねーか。何が「客商売が」だよ。めんどくさがりやがって。気持ちワルがりやがって。
水風呂に浸かりながら、俺は少し自分を責めた。

風呂から出た。

気持ち良いことは確かだが、やはり頭はクラクラしたままだ。

暗い感覚が、とまでは言わないが、なんとも言えない、どうにもならない、やるせない感情が胸の中に溢れてしまった。

「やれやれ、明日がまたやって来るのか…」

俺は胸の中でつぶやいた。

とりたてて言うほど感慨では無いのにもかかわらず、なぜだろう、俺はつぶやかずにはいられなかった。
posted by ツリー at 10:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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