
5月28日(木)
仕事終りにでダッシュで7thフロアへ。今夜はダイナミックオーシャンズのライブである。
微熱がありちょっとフラついてたが、舞台に上がれば大丈夫だろう。俺の種馬のようなパワーで今宵もスカッとレイプロックだ。テメエらの脳天を叩き割ってやるぜ。
出番直前に舞ダイナミックが「テルミン忘れた!」と激怒の叫びを上げていた。
なんだよ、そんなコトかよ。
テメエはただ立ってるだけで放送禁止なんだ。テルミンなんか無くても平気だよ。どれほど自分がヤバくて危険な存在かちゃんと自覚しな。
あまりに素晴らしい共演者の野郎どもの演奏が終り、次は俺達の出番だ。
しかし出る寸前になっても楽屋では「メンドクサイ」だの「ヤル気がまったくしない」だの「早く帰りたい」だのグズグズ言ってやがる。
「単なるビタミン剤だよ。疲れが取れるよ。」
とか言いながらヤツラの腕に注射を打ちまりたい。シャブ漬けにすれば少しは俺の言う事を聞くかも知れない。
とは言え今日もタフなステージだった。皆さんも楽しんでくれたかい?
これが『ハード・コア』なんだ。これが『へヴィネス』なんだ。息ができなくて脳に酸素が回らないんだ。
一回のライブで俺の脳細胞は何百万と死んでいっている。最近、掛け算の九九がパッと出てこない。どうしたらいい?誰がこの俺を『介護ロック』してくれるんだ?
『対人恐怖症ブルース』の時にものすごいピアノの不協和音が聞こえてきた。いったい全体何ごとたと振り向くと、ともみDが唐突にピアノを弾いている。
「ううっ、こいつキチ〇イだッ!なんてコトしやがんだよ!」
俺は絶句した。彼女は背筋をピンと伸しセレブクラシックを弾いているようなおすまし顔だ。しかしその音色は忘れるコトのできない不気味な旋律なのであった。
「アタシ今日から『トモミ・ヘミング』よ!」
終演後、彼女は平然とこう言い放った。これからもずっと弾くつもりなのか?信じられない。親の顔が見たい。
「のんこよ、たまにはお客さんに何かご挨拶しなよ。みんなが君のセレブトークを聞きたがっているんだぜ。」
のんこDにMCを振る。
「ええっ?何よ!」
露骨に『うるさいわね』という目で俺をニラむ。うーん良い目だ。良いニラミだ。まるで『女囚さそり』のようだ。その憎しみの瞳で客どもを睨みつけてやれ。こいつら皆マゾ野郎ばかりだ。全員がのんこのハイヒールに頬づりしたがっているんだよ。どうか判ってやれよ。
のんこDはマイクに近付くと静かにこう言った。
「ビールを…頂戴。」
美川憲一の名曲『お金をちょうだい』に匹敵する説得力だ。オヤジどもは我先にバーカウンターに殺到した。
「俺がおごるんだ!」、「いや、俺だ!」
オヤジどもが殺し合いを始めた。ヤツラの人生をメチャクチャにするのんこDの『黒革の手帳ロック』。凄まじいぜ。親の顔が見たい。
「それでは歌って踊って回して頂きましょう、レッツゴー舞ダイナミックのバトンショー、カモ〜ン!」
恒例の『ビバ!ホルモン』での舞Dによるバトンショー。俺は猛々しくアナウンスして舞Dのパフォーマンスを煽ろうとした。
しかし彼女はその場に立ちつくしたまま一向に動く気配がナイ。バトンを回す気などサラサラないようだ。
「どうした〜、なぜ回さない?なぜなんだぁ?さあバトン、レッツバトン、カモン舞ダイナミッ〜ク!」
これはトンデモナイことになったと俺は冷や汗をかきながら必死でわめいていた。舞Dがツカツカと歩み寄ると俺に耳打ちした。
「ねえ、メンドクサイのよ。今日はバトンやんなくてイイでしょ?」
俺は宿便が全部漏れるかと思った。ありえないだろう?このシチュエーションで絶対できない相談だろう?とっととバトンを回して客席に行きやがれ!
やっつけ仕事的にバトンをクネクネ回すと彼女はまっすぐ楽屋へ消えて行った。もちろんまだ演奏は続いているのである。
カーテンが半分開いていたので楽屋の中の舞Dの行動が逐一見えた。
「み、皆さんも見えますか?何のためらいもなく座っております、くつろいでおります!そして何やらだらしなく飲食しておる模様です!演奏の途中にすることでしょうか?ワタシには理解できません!許せません!地獄です、まさにこれは地獄なのです!」
俺は喉も裂けよとばかりに叫び続けた。ゲットバック舞ダイナミック!みんながお前を待っているんだ。さあ出てきておくれ!
まるで天の岩戸である。もはやこれはライブではない。これは『神話』なのだ。カモン、舞ダイナミック!
フト見ると彼女はメールチェックをしていた。楽屋から出て来る気配は全くなかった。
胸のムカつくような卑劣なライブが終わった。割れんばかりの拍手でアンコールまで頂いた。
なぜなんだ?このライブの何処が楽しいんだ?俺にはさっぱり判らん。俺がヤクザならこんなバンド、事務所に連れて行って一晩じゅう正座させるだろう。たっぷり冷や汗をかかせてやるんだ。この意見には賛成してくれるね?
そうではあるが、何はともあれご来場ありがとうございました!みんなが笑ってくれたら、それだけで俺達は幸せなんだ。サンキュー、ファッキューありがとう!
しばらくダイナミックのライブは無いけれど、おそらく夏の終わり頃にお会いできると思う。その時はまたひとつヨロシクお願いするぜ。
では次は俺のソロライブで会おう。来週の6月4日(水)に渋谷の『青い部屋』で演るゾ。どこまでも卑劣になれるぜ。ヨロシクね!