4月2日(水)
五反田の本社へ秋冬物コレクションの展示会に行く。物覚えが悪いから見たってすぐ忘れるんだけどね。
同僚のI嬢が中央線の同じ方向なので一緒に帰る。
「Iちゃんは明日は休みだね。何して過ごすの?」
俺は若い娘の日常をネホリハホリ聞こうと躍起になっていた。
「えーと、今から立川のTSUTAYAに寄って平井堅のCDを借りて帰ります!」
彼女は悪びれるコトなく快活に応えた。
「ひ、平井堅が好きなのかね?」
「ええ!大ファンなんです!歌は泣けるし、何よりもセクシーですよね!」
Iはうっとりした瞳で平井を讃美し続けた。
「角さんも音楽演ってるんですよね?どんな感じなんですか?」
どんな感じって、一体なんて説明したらイイんだよ?
『いやぁキミ、カンタンに言うとだね、やたら小便をもらす男が痴漢をしたりお好み焼きが食べたいが為に女房子供を売り飛ばしたりする歌なんだがね。』とでも答えればイイのだろうか?それじゃキチ〇イだと思われるだろう。
「…やっぱR&Bっぽい雰囲気になるのかなぁ。僕の目指している音楽は。」
相手は子供なんだ。何言ったって判りゃしねーよ。
「へえー、ホントですか。じゃあクラブに踊りに行ったりもするんですか?」
少女はクールな大人の世界を垣間見たいんだね、きっと。
「そうだね。たまにはメロウな気分でダンスしたい夜があるよね。そういう時は真っ先にクラブだよ。」
なんだよ?クラブって。俺が行くのは西国分寺のスナックかカラオケパブだけだよ。『いいちこ』のキープボトルにマジックで「スタジアムロック、つのもり」って書いてあるからテメエらも飲んでイイぞ。
それにしても、どうして俺は女の前だとこうも見栄を張りたがるのだろう?悲しいサガだな。凄まじいホラ話が脳を通過せずにペラペラ口からあふれてくる。
『ブルーノートでライブしたコトがある。』、『ウクレレじゃなくて専門はトランペット』、『どんな時もステージではクールでいたい』etc、恥も外聞もなく嘘八百を並べ立てた。必死で平井堅と張り合おうとしていた。ヤツより俺の方がはるかにレベルが上だぜ。オゲレツではな!
そこで突然背後から俺の肩をグイッとつかむ野郎がいた。なんだよ、いったい誰なんだよ?
「いやーツリー!そういう訳でおつかれさん!」
まさかと思ったがその声を聞き間違えるハズがない。俺は顔面蒼白で振り返った。
そこには悪魔のような微笑みのXNOXが仁王立ちしていた。
「ううっ、く、楠さん、し、しかもご家族皆さんおそろいで!」
なんと楠ファミリー全員大集結ではないか!一瞬にして車内には鼻を刺す小便のニオイが立ち込めた。もちろん俺が垂れ流したのだ。
「いやぁツリー、奇遇だねぇ。こんなコトってあるんだねぇ!」
喜色満面の笑顔で俺の肩を激しく揺すり続けるクスノキス。この世で一番肝心なのは素敵なタイミングさ。まさにその通りのタイミングでXNOXはイタすぎる俺のホラ話を全部聞いていたに違いない。
「ううっ、人が悪いじゃナイですか楠さんッ、いたのなら合図して下さいよぅ!」
俺は成敗される寸前の悪代官のようにブザマにひざまづいて泣きわめいた。
「ワッハッハー、貴重な話をありがとう、ツリー!じゃあまたねー!」
コルレオーネ・クスノキス・ファミリーは両手を振り振り爆笑で電車を下りてった。
見栄を張ってはイケナイ。どんな時もナチュラルでいなきゃダメさ。わかっちゃいるけどホラ話はやめられない。だからみんなもクールでメロウに野グソ実演する俺のライブに来なきゃダメさ。atブルーノートでな!
なにはともあれクスノキス・ファミリーの皆さんと久しぶりに会えて嬉しかったぜ!お元気そうで何よりさ。また一緒にへヴィーギグ演りたいですね!

