8月11日(土)
なんかイイ芸名をつけたいと昔からずっと思っていた。
自分はロックスターになってグルーピーを抱きまくるつもりでいたのでカッコいい芸名が必要だと感じていた。
大阪でハミングスをやってた頃、バイト先の先輩に相談すると『俺がエエ名前を考えてやる!』と言うのでお願いしてみた。
「角森、お前はもげ落ちそうなデッカイうっとおしい鼻をしとるやろ?それを活かせや。だから『鼻もげま倉千代子』ってのはどないや?」
俺は厨房の中で滝のように失禁した。島倉千代子のパロディーなんだろうが、はっきり言ってたけし軍団以下である。俺はカリスマ・ロッカーを目指してるんだ。なんなんだよ『鼻もげま倉千代子』って!
「なんや、気に入らんのかい。ほならな、お前は冬でも油肌でベトベトしとるやろ?ごっついうっとおしいねん。そこの所をアピールせえや。だからな『あぶら顔ネバ吉』ってどうや?」
これからノシアガッテ行こうとする野心家の男がなんのために『アブラガオネバキチ』と名乗らなければナラナイのか?まったく意味が判らなかった。
「いい加減にしてくださいよ!もっとロックっぽいキケンな香りのするのにして下さい!」
俺は泣き叫びながら懇願した。コイツの言う通りにしてたら俺は確実にツブされる。
「ほな『梅毒亭便所虫』はどうや?メッチャ危険やろ?」
俺はその日限りでバイトを辞めさせてもらった。そして本名でやるしかナイなと諦めた。
それでもバンドを始めた頃は、ステージで『ボーカル、角森隆浩です!』と自己紹介するのが恥ずかしくてたまらなかった。何かイイ名前はナイものかと思案し続けた。
全然気に入ってはいなかったが、ひとつ考えたのが『中納言やすし』という芸名だった。
俺はジャージを履くとチ〇コがもっこりする。このキケンでエロチックなシルエットをとても気に入っていた。女の視線をくぎ付けにできると思っていた。
しかし友達からは「お前のチ〇コ、エビ反っとるのー!」と言われ、アッと言う間にあだ名が『エビチン』とか『中納言』になってしまった。ちなみに『中納言』とは伊勢エビ料理店の名前である(『やすし』は好きだった横山やすしから取った)。
俺は大いに憤慨した。それでもためしに『中納言やすし』を名乗り始めてみた。
「バンドにとってその名前は何のメリットもない。今すぐ止めてくれ!」
メンバーからそう言われたが聞く耳を持たなかった。やはり本名は恥ずかしい。
ある夜ライブが終わると出待ちしていた女が俺に近づいて来てオズオズとこう言った。
「あのー中納言さん、サインを頂けませんでしょうか?」
一瞬誰のコトを言ってるのか判らなかった。
照れ隠しで『中納言』と言っていたが、いざ人からそう呼ばれると背筋が凍るほどの違和感があった。
しかし仕方がナイ。自分が言い出したコトだもんな。俺はすべてを諦めて彼女から差し出された紙を受け取った。
『一期一会〜中納言やすし』
寒々しい達筆でサインした。
「ありがとうございます、中納言さん!」
女は嬉しそうに帰って行った。俺は黙って彼女の後ろ姿を見送った。そして金輪際この名前を使うのは止めにしようと決心した。
俺はひたすらスターになりたかったのだ。『中納言』でスターは無理だと気がついた。
それ以来芸名をつけようとは思わなくなった。
それでも時おり『何かイイ名前はナイかな』と考えてしまう。悲しい性である。
最近思いついた名前で『ベンジャミン金田』というのがあり、これは気に入っていた。
自分の好きなキャラをふたつ足した芸名なのである。
まず『ベンジャミン』は電線音頭を踊る時の伊東四朗の『ベンジャミン伊東』(写真)で『金田』は大好きだったドラマ『ムー一族』の『カネタさん』役の樹木希林から取った。
子供の頃好きだったモノを大人になってから表現するのが作家だと思う。少なくとも俺は人一倍それに執着している。
そういう意味で『ベンジャミン伊東』と『金田さん』は死ぬまで愛し続ける傑作キャラクターなのである。
『この人達のように俺も人を喜ばせたい!』小さい頃からずっとそう思い続けて来た。
でもたぶん『ベンジャミン金田』は名乗らないと思うけどね。だってこんなの絶対にモテる訳ねえじゃねーか!

