
2月21日(水)
ずいぶんと長い間、部屋の掃除をしていない。散らかり放題のこのブタ小屋では心の安らぎなどありゃしない。まるで娼婦と麻薬中毒者の巣窟のような汚らわしさだ。
俺は普段から全裸で街を徘徊するような荒れ果てた心の持ち主である。そして、すべてはこのダーティールームのせいだと思っている。
やはり部屋は常に清潔にしておかなきゃイケナイと思うんだよね。精神衛生上、絶対そうした方がイイはずだよ。少なくとも俺はそう思うね。
「ツリーの部屋は可愛くてキレイ!」
みんなそう言ってくれるけど、実際は来客がある時に必死になって掃除しているだけなんだよ。
ぼかぁとっても見栄っぱりなんだ。
ほとんど人が訪ねて来るコトのナイこの孤独な部屋に、果たして整理整頓は必要か否か?ワレハ自ラニ問フ。
そんなの問うまでもネェよ。掃除は大切だよ!ぜってえに必要だよ!このままじゃ心が荒む一方だよ!
俺はすべての創作活動をこの部屋の中で行っている。
人様の心に響く素晴らしいソングを作りたいと、日々精進しているのだ。
涙を誘う美しいラブソング。はたまた、あなたの人生の道しるべとなるような中身の濃い人生ソング。それこそ俺が作らなきゃナラナイ歌のハズなんだ。判るだろ?キッズ達の心の教祖様に俺はなりたいんだ。
しかるにこの部屋から生まれる曲々の醜悪さはどうだ?はっきり言って浮浪者の野グソほどの値打ちもありゃしない(誰の野グソにも値打ちなどアリマセンけど…)。
あまりに切なくて、思わず俺は便意をもよおす。
昨夜も新しい曲のアイデアが浮かんだ。このプライベートな空間が俺に芸術的ヒラメキを与えてくれたのだ。そう、天才が羽ばたく瞬間さ。
その曲はサビの部分でひたすら『オシッコ漏らしちゃった!オシッコ漏らしちゃった!」と叫んでいるだけの曲であった…。
キューバ危機の時のケネディー大統領みたいな深刻な表情で、ただひたすら『俺は小便を漏らした』というだけの内容の歌を歌い続けていた。
正直言ってこんな人生あってたまるかと思う。
何が『人生の道しるべ』だよ!何が『涙を誘う』だよ!泣くのは俺のおふくろだけだよ!
「タカヒロ、お願いだからマトモになっておくれ!」
母は悲鳴を上げるだろう。かあちゃん、ホントは俺だって泣きたいんだよ!
俺はアーチストとして自分の心の中をノゾキ込む。自己探求こそが芸術家に課せられた責務だと思っている。
そして俺のハートの中は痰壺のようであった。隅から隅まで下品なモノしか詰まっていなかった。
俺が敬愛する徳永英明さんのようになるには100年あってもまだ時間が足りないだろう。
絶望のあまり俺は『オシッコ漏らし』そうになった。
「ううっ、平井堅みたいな曲を作りたい…。」
俺は断末魔のうめき声を上げた。ここまで身の程知らずな大人も珍しい(俺は平井堅に『学校教育』を歌ってほしい)。
とにかくこの散らかった部屋をなんとかせねばナラナイ。キレイでスピリチャルなスペースが俺には必要なんだ。
「今日こそ部屋を片付けて、キチンと曲作りしようね…」
俺は力無く自分に言い聞かせる。そしてノソノソと掃除を始める。
しかし自分の運命は自分で承知しているつもりだ。
部屋がキレイだろうが汚かろうが、俺は『オシッコ漏らしちゃった』を全力で仕上げるだろう。もうそうするしかナイのだろう…。
徳永さん、あなた歌ってくれますか?