
11月18日(土)
朝4時だというのに、睡魔はやってくる気配すらなかった。7時半には起きなくてはならない。あと3時間半しかない。
俺は冷汗をかきながら座禅を組む。心を無にして自らを眠りへといざなうのだ。静かに目を閉じ瞑想に入る。
しかしやっぱりイカガワシイ女どもが全裸で現われてきた。ハレンチ極まりない誘惑を俺にブチかましてくる。
「たいがいにしやがれ!このドキチ〇イどもが!」
俺は怒号を発し立ち上がる。清らかな俺の瞑想を汚す女というものを俺は絶対に許さない。
「てへへ、こんなコトもあろうかと思いましてね、あっしはコイツを用意してたんでゲスよ。」
急に卑屈な口調で独り言を言うと、俺は冷蔵庫から2リットルの徳用日本酒を取り出した。
「コイツをキュッと一杯頂きヤシテネ、後はコテンとバタンキューでゲスよ!」
人間は追い詰められるとトコトンまで卑屈になるものらしい。
コップ酒をナミナミと2杯連続でイッキ飲みする。熱いものが五臓六腑にしみわたる。
「プハァーッ、うまい!ホロリと酔った!悩みが全部消えた!俺は人間を愛している。そして人生を謳歌シテイル。殺意はもうナイゾ。ラヴィアンローズ!」
わめき散らしながら3杯目をグラスにそそぐ。魅惑の液体が俺の導火線に火をつけた。
「しかしここまでだゾ!もうすぐ起きなきゃイケナイんだ。俺には仕事が待っているんだ!」
真摯な態度でグラスを飲み干す。たまに飲むと日本酒はウメエなあ。
「人間は独りでは生きられない。そして今、俺のそばには酒がいてくれる。」
4杯目を注ぎ、瞬時に飲み干す。
突然シクシクと泣き出す。
「俺はどうしてこうもダメなんだ。才能のカケラもありゃしねえ!」
秒殺で5杯目が消える。
「うぉーっ、ランちゃん、水谷豊と離婚してくれッ!」
6杯目もイッキ飲み。
ベランダに出て意味不明の言葉を絶叫する。8杯目までは覚えているが、それ以降は記憶がない。
やがて昏倒し豚のように眠りこけた。そして夢の中にランちゃんが出てきた。
俺は半ズボンの小学生でランちゃんはまだキャンディーズだった。
セビア色の夢の中、俺はニコニコしながらじっとランちゃんを見つめていた。『こんなきれいな人はこの世に二人といないよな。』そう思って見とれていた。
深い深い愛情と敬慕の念。
そんな清らかな感情に半ズボン少年は押し潰しそうになっていた。
『どうかこのまま時間が止まってくれないかなぁ。いつまでもランちゃんのそばにいれたらイイのになぁ…。』
少年は切なくてベソをかいた。頭の中に『やさしい悪魔』のイントロが流れてきた。
朝7時半。目覚ましは正確に鳴り響いた。耳をつんざくような轟音だった。
1時間後、俺は何ごともなかったようにネクタイを締め、通勤電車にゆられていた。さっぱりとヒゲを剃り、ごく自然に朝の風景に溶け込んでいた。今日もまた頑張ればいいのだ。なにも心配しなくていいんだよ…。
角森隆浩38歳。そして伊藤蘭51歳。
平成18年11月18日はこうして始まり、そしてアッと言う間に終わった。

