
11月11日(土)
朝6時半起床。7時半に車で自宅を出発。
今日は妹の結婚式である。
式場となるホテルは、オーシャンヴューならぬ『甲子園ヴュー』なのである。
新郎新婦の両家は共にタイガースファンなのである。実に粋なホテルチョイスであると思わずにはいられない。チャペルでパイプオルガンから六甲おろしが響くんだろ?新郎新婦よ、君達は相当ホットなブライダルがお望みみたいだな?
式は11時半からなのになぜこんな早く来たのかというと、母達の着物の着付けがあるからだ。
俺は必然、時間をもてあます。仕方がないので外出することにした。
俺は緊張のためホルモンのバランスを崩していた。冗談ではなく、妙にヒゲが伸びるのが早いんだ。
「昨夜キチンと剃ったハズだぜ!」
怒鳴ったところで伸びてるものはしょうがナイ。
まるで鼻の下にカビが生えてるみたいだ。なんてブザマな顔つきなんだよ!なんてぇ邪悪な形相なんだよ!
丁度となりがダイエーだったので俺はあわててカミソリを買いに行った。
「今日は大切な日だ。とにかく身なりは清潔にしておかなきゃならないぜ!」
妹に恥をかかす訳にはいかない。俺は清新な気持ちでカミソリを顔にあてた。
なんだか剃ってる間じゅうやたらと痛かった。顔を洗い終え、鏡をノゾキ込み俺は卒倒しそうになった。
「ううっ、俺の顔面が血だるまになっているッ!」
あわてて止血の為トイレットペーパーで顔をグルグル巻きにした。しかしすぐにトイペに血がにじんでくる。何なんだよ、コレは?カミソリの歯に異変があったとでも言うのか?
「許さんぞダイエー!狂った欠陥商品をつかませおって!」
俺は激怒してカミソリの袋を見た。そしてそこにはハッキリと『女性体毛処理専用』と書かれてあった。
「ううっ信じられるか?剛毛すぎるババアどものワキ毛やマ○毛を剃る専門の強力カミソリじゃねーか!そのせいで俺のデリケートな皮膚がズタズタになった!」
20分もトイレの中を這いずり回り、やっと出血が止まった。いったい俺は何をやってるんだろう。
控え室に戻ると既に母と伯母は着物に着替え終えていた。後は妹のウエディングドレスを待つのみである。
普段はカジュアル専門の妹がドレスを着るのである。俺には想像すら出来ない姿だ。俺がいつも休日に楽しんでいる女装サークルのドレスみたいなモノなのだろうか?皆目見当もつかない。
「新婦さん、ご用意できました!」
式場のクルーがそう告げに来た。そして純白のウエディングドレスを纏った妹が控え室に入ってきた。
「あらー!淳ちゃんキレイやないの〜!」、「すごい可愛い花嫁さんよ!」
親族どもからのどよめきと歓声が聞こえる。
俺も何かボケなきゃ、ドレス姿を酷評しなきゃと思ったが全く言葉が出てこない。
世界中のすべての花嫁と同じように、妹のウエディングドレス姿も神々しいまでに美しかった。いやはや、やっぱり女はコワイね。
記念写真を撮ったりしてハシャイデる内に時間が迫ってきた。
「じゃあ、そろそろ新郎新婦のお二人とお兄様はチャペルの方へいらして下さい。」
ついにクルーが俺達を呼びにきた。
「マジかよ?やたらテンパルぜ!」
俺は叫ぶ。我が家は母子家庭なので花嫁と共にバージンロードを歩くのはパパではなくこの俺なんだ。
「なんてぇ緊張感だよ。リラックスするために重度のキチ○イのフリをして歩くぜ。」
俺がそう言うと新婦は唸るようにつぶやいた。
「いいか、ジジイ、ただ真っ直ぐ歩くんだ。余計なコトを考えるな。真っ直ぐ歩け。もし出来なかったら殺す。」
妹は冷徹に俺に言い渡した。そうだ、今日だけは彼女の言う通りにすべきだよな。ちゃんと真っ直ぐ歩かなきゃ。
「さあ、行きますよ!」
式場クルーの声と共にチャペルのドアが開いた。
讃美歌が流れオルガンの音が鳴り響く。ずらりとならぶ参列者の視線がサッとこちらに集まる。
俺達は胸を張り前方の十字架を見た。そしてその十字架の真下でキンチョーしきった面持ちで新婦を待つ新郎を見た。
二人の永遠の誓いの儀式がついに始まったのである。
(次号に続く)